食品表示でわかる「環境保全型農業」:農法と環境への良い影響
日々の買い物で食品を手にとるとき、多くの方が原材料名や賞味期限、栄養成分表示などを確認されることと思います。これらの表示は、食品の安全性や品質を知る上で非常に重要です。しかし、食品表示には、その食品がどのように作られ、それが環境にどのような影響を与えているのかを読み解くヒントも隠されています。
この情報サイト「ラベルでわかる食の環境影響」では、食品表示を切り口に、食が環境に与える影響について考えていきます。今回は、「環境保全型農業」という取り組みと、それが食品表示にどのように表れているのか、そしてその農法が環境にどのような良い影響をもたらすのかに焦点を当ててご紹介します。
「環境保全型農業」とは?なぜ注目されるのでしょう
「環境保全型農業」とは、農業を持続可能な形で続けられるように、環境への負荷をできる限り減らすことを目指す農法の総称です。具体的には、化学肥料や農薬の使用を減らすだけでなく、土壌の健康を守ったり、周りの生き物(生物多様性)を守ったり、水の利用を適切に行ったりするなど、様々な取り組みが含まれます。
なぜ環境保全型農業が重要なのでしょうか。一般的な農業は、時に大量の化学肥料や農薬を使用したり、広大な土地を利用したりすることで、温室効果ガスの排出、水質汚染、土壌の劣化、生態系の破壊といった環境問題を引き起こすことがあります。環境保全型農業は、これらの負荷を減らすことで、地球の環境を守りながら、将来にわたっても安全で質の高い食料を生産していくことを目指しています。
食品表示のどこにヒントがある?環境保全型農業を見分ける手がかり
環境保全型農業に取り組んでいる食品かどうかを、食品表示だけで完璧に判断することは難しい場合があります。しかし、いくつかの表示にヒントが隠されています。
1. 有機JASマークや特別栽培農産物表示
これまでにもご紹介しましたが、「有機JASマーク」や「特別栽培農産物」の表示は、環境保全型農業の代表的な例と言えます。
- 有機JASマーク: 化学的に合成された農薬や肥料を原則として使用せず、遺伝子組み換え技術を用いないなど、厳しい基準を満たした有機農産物や有機加工食品に付けられるマークです。これは、土壌の健康や生物多様性の維持に配慮した農法であることの信頼できる証です。
- 特別栽培農産物表示: 慣行栽培(その地域で一般的に行われている栽培方法)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培された農産物に付けられる表示です。農薬や化学肥料の使用を減らすことは、水質汚染や土壌への負荷を低減することにつながります。
これらの認証マークは、国が定めた基準に基づいており、比較的簡単に環境への配慮度合いを判断する手がかりになります。
2. 生産者名や所在地
食品表示には、生産者の名前や会社名、所在地が記載されていることがあります。特に生鮮食品などでよく見られます。気になる生産者がいれば、その生産者のウェブサイトやSNSなどをインターネットで検索してみることをお勧めします。環境保全型農業や、特定のこだわり(例:循環型農業、地域の生態系を守る活動など)について積極的に情報発信している生産者も増えています。生産者の顔が見えることで、どのような思いで、どのような農法で育てられたのかを知る糸口になります。
3. 栽培方法に関する自主的な記載
義務表示ではありませんが、商品のパッケージに「〇〇農法」「減農薬栽培」「化学肥料不使用」といった栽培方法に関する記載が自主的にされている場合があります。ただし、これらの表示には統一された基準がないことが多く、その意味するところは生産者によって異なります。気になる表示を見つけたら、それが具体的にどのような取り組みなのかを、生産者情報などから調べてみることが大切です。信頼できる情報源かを見極める必要があります。
4. 地域名
特定の地域では、地域全体で環境保全型農業を推進している場合があります。例えば、特定の県や市町村が独自の環境保全型農業の認証制度を設けていたり、地域の景観や生態系を守るためのルールを定めたりしています。食品表示に特定の地域名があれば、その地域の取り組みについて調べてみることも、環境に配慮した食品を見つける手がかりになるかもしれません。
環境保全型農業で育てられた食品を選ぶことが、なぜ環境に良い影響を与えるのでしょう?
環境保全型農業は、様々な側面から環境負荷を低減します。
- 土壌を守る: 化学肥料の使用を減らし有機物を活用することで、土壌中の微生物が豊かになり、健康な土壌が育まれます。これにより、土壌が雨水による浸食に強くなったり、二酸化炭素を土の中に閉じ込める(炭素貯留)能力が高まったりします。
- 水をきれいに保つ: 化学肥料や農薬の使用を減らすことで、雨などによってこれらが川や湖に流れ出すのを防ぎ、水質汚染(特に富栄養化による赤潮・青潮など)を防ぎます。
- 生き物を守る(生物多様性保全): 農薬の使用を減らし、多様な植物を育てたり、農地の周りに緩衝帯(農薬などが飛散しにくい草地など)を設けたりすることで、昆虫、鳥類、両生類など、様々な生き物が暮らせる環境を守ることができます。
- 温室効果ガスを減らす: 特に化学肥料の製造や使用、水田からのメタンガス発生などを抑制する技術を取り入れることで、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を減らす努力がされています。
これらの取り組みは、単に特定の農地だけでなく、その周辺の自然環境全体、そして地球全体の環境システムに良い影響を与えます。
日々の買い物で実践できること
「環境保全型農業」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、日々の買い物でできることはシンプルです。
- 食品表示をよく見てみましょう: 有機JASマークや特別栽培農産物表示がないかを探してみることから始めましょう。
- 生産者情報に注目してみましょう: 気になる生産者名があれば、インターネットで検索してその生産者のこだわりや農法について調べてみるのも良いでしょう。
- 分からない表示があれば調べてみましょう: 自主的な表示など、意味が分かりにくい場合は、少し時間をかけて調べてみることで、その食品がどのように作られたのかが見えてくることがあります。
もちろん、すべての食品が環境保全型農業で育てられているわけではありませんし、すべての環境に配慮した取り組みが表示されているわけでもありません。しかし、表示から読み取れるヒントを手がかりに、一つでも環境負荷の少ない食品を選ぶ意識を持つことが大切です。
まとめ
食品表示は、単なる義務表示だけでなく、その食品が歩んできた道のりや、環境への配慮について教えてくれる貴重な情報源です。特に「有機JASマーク」や「特別栽培農産物」といった認証は、環境保全型農業の具体的な取り組みを示す分かりやすい手がかりとなります。さらに、生産者情報や自主的な記載なども、その食品がどのように作られたのかを知るヒントになります。
これらの表示に注目し、環境保全型農業で育てられた食品を選ぶことは、日本の農業や豊かな自然環境を未来に引き継いでいくための一歩につながります。毎日の食卓から、地球にやさしい選択を意識してみませんか。