食品ラベルの「遺伝子組み換え」表示:環境への影響を考える
食品ラベルの「遺伝子組み換え」表示に注目してみましょう
スーパーで食品を選ぶ際、原材料名や栄養成分表示だけでなく、小さな文字で記載されている「遺伝子組み換え」に関する表示を目にしたことがあるかもしれません。この表示は、その食品が遺伝子組み換え技術を使って作られた作物(遺伝子組み換え農産物)を含んでいるかどうかを示しています。
では、なぜこの「遺伝子組み換え」表示が、私たちの食卓から環境への影響を考える上でヒントになるのでしょうか。それは、遺伝子組み換え作物の栽培方法が、時に従来の作物とは異なる特徴を持ち、それが環境に影響を与える可能性があるからです。
「遺伝子組み換え」とは何か? 表示の基本を知る
「遺伝子組み換え」とは、生物が本来持っていない性質(例えば、特定の農薬に強い、害虫に食べられにくい、栄養価が高いなど)を持たせるために、他の生物から役に立つ遺伝子を取り出し、目的の生物に組み込む技術のことです。現在、日本に流通している主な遺伝子組み換え農産物には、大豆、とうもろこし、なたね、じゃがいも、てん菜などがあります。
日本の食品表示制度では、特定の対象農産物およびそれを主な原材料とする加工食品について、遺伝子組み換えに関する表示が義務付けられています。表示は主に以下のようになります。
- 「遺伝子組み換え」と表示されるもの: 遺伝子組み換え農産物が使用されている場合。
- 「遺伝子組み換え不分別」と表示されるもの: 遺伝子組み換え農産物と非遺伝子組み換え農産物が分別されていない場合。これは、流通や加工の過程で意図せず混ざる可能性があるため、完全に分別していないことを示します。
- 「遺伝子組み換えでない」と表示されるもの: 非遺伝子組み換え農産物を使用し、一定の基準(混入率5%以下など)を満たしている場合。
遺伝子組み換え作物の栽培と環境影響のつながり
遺伝子組み換え作物の多くは、特定の除草剤に耐性を持つように改良されています。これは、農家さんが除草剤を一度に広範囲に散布しても、作物には影響がなく、雑草だけを枯らすことができるため、栽培の手間を減らせるというメリットがあります。
しかし、この除草剤耐性を持つ作物の普及により、同じ種類の除草剤が繰り返し、あるいはより多量に使用される傾向が指摘されています。特定の除草剤の多用は、以下のような環境への影響が懸念されています。
- 土壌・水系への影響: 除草剤が土壌に残ったり、雨水などとともに河川や地下水に流れ込んだりする可能性があります。
- 生物多様性の低下: 特定の雑草だけを徹底的に除去することで、その雑草を餌としたり生息場所としたりしている昆虫や鳥類などの野生生物に影響を与え、地域の生物多様性を損なう可能性があります。
- 耐性雑草の出現: 同じ除草剤を使い続けることで、その除草剤が効かない「スーパー雑草」が出現し、さらに強い除草剤が必要になるという悪循環に陥る可能性も指摘されています。
一方で、害虫に食べられにくい性質を持つように改良された遺伝子組み換え作物もあり、これによって殺虫剤の使用量を減らせるという事例もあります。遺伝子組み換え技術そのものが一律に環境負荷が高い、低いと言えるわけではなく、どのような性質が組み込まれたか、どのように栽培されるかによって環境への影響は異なりうる点に注意が必要です。
買い物でできること:表示から読み取るヒント
日々の買い物で、環境への影響を少しでも意識したいと考える場合、「遺伝子組み換え」表示は一つの参考になります。
- 「遺伝子組み換えでない」を選ぶ: これは、対象となる農産物において、遺伝子組み換え技術が使われていないことを意味します。多くの場合、このような作物は、除草剤耐性といった特定の性質を持たせるための遺伝子組み換えではないため、上記のような除草剤多用に起因する環境負荷のリスクが比較的低いと考えられます(ただし、非遺伝子組み換え作物でも他の農薬が使用される可能性はあります)。
- 表示対象となる主な食品を知っておく: 大豆(豆腐、納豆、醤油、味噌など)、とうもろこし(コーンスターチ、コーン油、異性化液糖など)、なたね(なたね油)、じゃがいも(ポテトチップスなど)、てん菜(砂糖)などが主な対象です。これらの食品やその加工品を選ぶ際に、表示を確認してみましょう。
- 認証マークと合わせて考える: 有機JASマークなどがついた食品は、遺伝子組み換え技術の使用が認められていません。認証マークと合わせて見ることで、より多角的に環境負荷の低い食品を選ぶヒントになります。
まとめ:小さな表示から広がる環境への視点
食品ラベルの小さな「遺伝子組み換え」表示は、単に技術的な情報を伝えるだけでなく、その作物がどのように栽培され、どのような環境影響をもたらす可能性があるかを示唆しています。遺伝子組み換え作物の環境への影響については、様々な議論があり、一概には言えませんが、特に除草剤耐性を持つ作物の普及は、特定の農薬使用や生物多様性に影響を与える可能性が指摘されています。
「遺伝子組み換えでない」と表示された食品を選ぶことは、そうした環境負荷の可能性を考慮した一つの選択肢となり得ます。もちろん、遺伝子組み換えかどうかだけで食品の環境負荷の全てが決まるわけではありません。産地、栽培方法全体、輸送方法など、様々な要因が影響します。
しかし、食品ラベルの表示に意識を向けることで、普段何気なく手にしている食品が、私たちの食卓に届くまでにどのような道のりを辿り、環境とどのように関わっているのかを知るきっかけになります。日々の買い物の中で、少しだけ立ち止まって表示を確認することが、より環境に配慮した食生活への第一歩となるでしょう。