「賞味期限」と「消費期限」:表示から考える食品ロスと環境問題
日々の食卓と環境問題:食品表示の期限表示に注目する
私たちは毎日さまざまな食品を選び、購入し、消費しています。その際、多くの人が気にする食品表示の一つに、「賞味期限」や「消費期限」があります。これらの期限表示は、食品を安全においしく食べるために非常に重要な情報ですが、実は私たちの食生活が環境に与える影響とも深く関わっています。
食品が期限切れで捨てられてしまう「食品ロス」は、日本国内でも年間約523万トン(令和3年度推計値、農林水産省・環境省)にも及ぶと言われています。この大量の食品ロスは、生産から廃棄に至るまで、地球環境に様々な負荷を与えています。
この記事では、食品表示にある「賞味期限」と「消費期限」に焦点を当て、それぞれの意味を正しく理解することを通して、どのように食品ロスを減らし、環境への負荷を軽減できるのかを考えます。
「賞味期限」と「消費期限」:違いを正しく理解する
食品のパッケージに記載されている期限表示には、大きく分けて「賞味期限」と「消費期限」の二種類があります。これらは似ているようで、実は示している内容が異なります。
-
消費期限: 袋や容器を開けない状態で、表示されている保存方法に従って保存した場合に、安全に食べられる期限を示しています。主に、品質が急速に劣化しやすい食品(例:生菓子、お弁当、調理パン、生めん、食肉、鮮魚など)に表示されています。この期限を過ぎた食品は、安全性の保証ができないため、食べない方が良いとされています。
-
賞味期限: 袋や容器を開けない状態で、表示されている保存方法に従って保存した場合に、品質が変わらずにおいしく食べられる期限を示しています。比較的品質が劣化しにくい食品(例:スナック菓子、カップめん、缶詰、牛乳、ペットボトル飲料など)に表示されています。この期限を過ぎても、すぐに食べられなくなるわけではありません。期限を過ぎた場合でも、見た目やにおい、味などを確認し、問題がなければ食べられることがあります(ただし、保存状態によります)。
このように、「安全に食べられる期限」を示す消費期限と、「おいしく食べられる期限」を示す賞味期限は、その性質が異なります。この違いを理解することが、食品ロス削減の第一歩となります。
食品ロスはなぜ環境問題につながるのか
期限切れなどによって食べられる食品が捨てられる「食品ロス」は、単に「もったいない」というだけでなく、深刻な環境問題を引き起こします。
食品が私たちの手元に届くまでには、生産(農業、漁業、畜産)、加工、輸送、販売といった多くの段階を経ています。それぞれの段階で、エネルギーが使われ、温室効果ガスが排出され、水資源や土地が消費されています。
例えば、 * 農産物の生産には、土地利用、水、肥料、農薬が使われ、温室効果ガスが発生します。 * 畜産は、広大な土地が必要な上、家畜のゲップや排泄物から強力な温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素)が発生します。 * 食品の加工や輸送には、多くのエネルギー(電力、燃料)が消費され、これも温室効果ガスの排出につながります。
これらの過程を経て作られた食品が食べられることなく捨てられるということは、生産・加工・輸送にかかった資源やエネルギー、排出された温室効果ガスがすべて無駄になることを意味します。さらに、捨てられた食品を焼却処分する際にも、再びエネルギーを消費し、温室効果ガスが発生します。埋め立てられた場合は、分解過程でメタンガスが発生し、これも強力な温室効果ガスです。
食品ロスを減らすことは、これらのサプライチェーン全体での環境負荷を低減することに直接つながるのです。
食品表示を見て、環境に配慮した選択をするためのヒント
では、私たちは日々の買い物で、食品表示の期限表示をどのように活用し、環境負荷の低減に貢献できるのでしょうか。
-
「消費期限」と「賞味期限」を区別して理解する:
- 消費期限が表示されている食品は、期限内に食べきる計画を立てましょう。
- 賞味期限が表示されている食品は、期限が過ぎていても、すぐに品質が劣化するわけではないことを覚えておきましょう。期限が近いからといって慌てて捨てず、見た目やにおいなどで判断する習慣をつけることで、無駄を減らせます。
-
必要な分だけ購入する:
- 買い物に行く前に冷蔵庫や食品庫を確認し、何が必要かリストアップしましょう。
- 「〇〇がお買い得だから」と必要以上に買いすぎると、使い切れずに期限を迎えてしまう可能性が高まります。特に消費期限が短い食品は要注意です。
-
「てまえどり」を意識する:
- スーパーなどで、すぐに食べる予定の食品を選ぶ際は、棚の手前にある期限の近いものから取る「てまえどり」に協力しましょう。これは、店舗での食品ロス削減に貢献できます。ただし、奥にある新しいものを選ぶことが悪いわけではなく、ご自身の消費計画に合わせて選択することが最も重要です。
-
正しく保存する:
- 食品表示に記載されている保存方法(例:「要冷蔵10℃以下」)をしっかり守りましょう。正しい保存は、食品の品質を保ち、期限表示の日付まで安全においしく食べることにつながります。
- 開封後の保存方法にも注意が必要です。多くの食品は、開封すると表示されている期限に関わらず、品質が劣化しやすくなります。開封後はできるだけ早く食べきりましょう。
-
在庫を管理する:
- 冷蔵庫の中などを定期的にチェックし、何があるか、いつまでに食べきらなければならないかを把握しましょう。期限が近いものから使うように献立を考えるなどの工夫が有効です。
まとめ:小さな意識が大きな変化に
食品表示の「賞味期限」や「消費期限」は、私たちが食品を安全に楽しむための情報であると同時に、食品ロスという環境問題について考えるきっかけを与えてくれます。
期限表示の意味を正しく理解し、日々の買い物で「買いすぎない」、家庭で「使い切る」「正しい方法で保存する」といった小さな意識と行動を積み重ねることで、私たち一人ひとりが食品ロスを減らし、地球環境への負荷を軽減することに貢献できます。
これらの表示を環境への視点から読み解き、毎日の食卓からサステナブルな未来につながる選択を始めてみませんか。